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海と生きる町 浜当目海岸を歩く

焼津にはまだまだ知られていない魅力的なスポットが沢山あります。今回は歴史ある浜当目海岸を歩き、町の人たちにその魅力を聞いてみたいと思います。

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浜当目に移り住んでの印象は?

浜当目海岸の入り口にある印象的な緑の建物は、民宿・柳亭さん。魚料理が美味しいと評判です。まずはここで話を聞いてみます。

柳亭店主、田形幸弘さんにお話を伺います。

柳亭店主 田形幸弘さん

「以前勤めていた用宗の旅館から独立し、2002年、同じような環境を求めてここに民宿を開きました。屋上からは一面に海が見渡せて絶景。お客様にはすぐそこの虚空蔵山(こくぞうさん)でハイキングを楽しんでいただけます。

移り住んで20年経ちますが、当時はまだこの辺りに漁師小屋が残っていました。山からアナグマなどが出てきてびっくりしたこともあります。近くには、海亀や狐のお墓もあるんですよ。」

柳亭屋上からの景色

海亀や狐のお墓!では、探しながら歩いてみましょう。

ひっそりと建てられたおきつねさまの墓

海水浴シーズンを終え、とても静かな浜当目海岸。近くの人たちが気持ちよさそうに散歩をしています。二人連の女性に声をかけると、「あたびーカフェ」にいらっしゃったついでのお散歩だと言います。

「浜当目なんて何年ぶりに来たかしら?海がすごくきれいでびっくりしました」

本当に海がきれい。改めて写真をパチリ。

近所の人が散歩する海岸

浜当目海岸の奥にできた「あたびーカフェ」さん。この辺りでお店を始めるなんてすごくびっくりしたのを覚えています。

あたびーカフェ店主、長谷川純子さんにお話を伺います。

あたびーカフェ 長谷川純子さん

「2021年4月。ここに住む主人の母との同居が決まり、こちらに移住しました。母が暮らす古民家は窓から入る光がとても素敵で。それを活かすような店ができないかと考え、引っ越すタイミングで開業しました。沖縄料理をメインのテーマにすると決めたのは以前から好きだったからですが、偶然にも、海が広がるこの場所ととても相性のいい店になりました。
浜当目は海も山もあり独特な空気感。のんびり過ごすにはもってこいの場所ですね。」

シークワーサーのソーダ

 

昔ながらの浜当目を探る

浜当目は確かに独特な雰囲気のある町です。

若い頃に職場でおばあさんに話しかけられた母。

「ヤンデャーラからヤーンデキタだよ」

「やんだいら」という場所から「歩いて来た」のだと解読するまで時間がかかりとても焦ったという話は、今でも我が家での笑い話なんです。

そんな話をすると、那閉神社の宮司・松下正之さんは「この土地の人たちは、とにかく言葉が荒かった」と笑いました。

那閉神社は浜当目の地に古くからある歴史ある神社。松下さんは宮司として長く町を見守られてきました。「ほんの僅か」というのを「ちくちっと」というなど、浜当目独自の言葉もあったとか。

那閉神社 宮司の松下正之さん

近年まで独特の言葉が残っていたのは、浜当目が、瀬戸川の当目大橋を渡ってどん詰まりにある「島のような」形状の土地だったことに関係します。

「この土地だけで完結するような生活をしていた特殊な土地柄だった」と松下さんは言います。

「朝比奈川と瀬戸川からの豊富な水。現在のようにガスや電気が家庭に普及するまで欠かせなかった薪。この薪は殿山(とのやま)で豊富に手に入れることができた。昔、奥山の神社の祭りでは猪や鹿の頭、また雉(きじ)が奉納されていたんだよ。もちろん食用としても山の動物が捕られていた。殿山でも同様に食用として動物が捕られていたんだよ。」と松下さん。

取材途中でお話した方からも偶然、面白いお話を聞くことができました。

その方がお嫁に来た当時、家業の傍ら女たちが畑を耕していたお宅が多かったと言います。

「家で食べる分くらいは賄うことができたんだと思います」

特にさつま芋を作る家が多く、干し芋が絶品だったとか。

そして何といっても生活の基盤は漁業。まぐろやかつお。しらすとさくらえび。海岸付近ではあわび、かき、あらめにわかめに岩のりと様々なものが捕れたのだそうです。

近所からのお菜分けで夕飯のおかずに困ることはありません。

海と共に生きる町

「この町と海は切っても切れない関係」と那閉神社の松下さんさんは言います。狭いこの地域に、一番栄えていた時には船元が11軒。仕事にも事欠かない。

「知り合いで、海岸から海で魚が群れてぴょんぴょん跳ねている光景を見たという人もいた。」

豊かな海だったのだなあと思いました。

しかし、漁師の暮らしは安泰とばかりはいきません。 こちらは、海岸沿いに建つマリアナ観音。

マリアナを臨むマリアナ観音

1965年、マリアナ海域漁船集団遭難事件で台風に巻き込まれ亡くなった、浜当目の第三千代丸乗組員42名の慰霊碑です。

近くにあるのは海亀のお墓。1970年代初頭辺りまで産卵に訪れていた海亀。海亀は海からの使い。死んだ子亀は墓に大切に葬る。これもまた漁師たちが海での無事、また大漁を願う儀式。

海亀を葬った墓

「漁師は自然と向き合う仕事。台風などに見舞われ、” 目に見えない力にすがるしかない”という経験をした人も少なくはなかったろう」、こういう土地柄だからこそ信心深くなったのではと松下さんは言います。

祭神 大黒様

船が出港する前には必ずお参り。出港時には、虚空蔵山(当目山"とうめさん")に向かって洗米をまいて無事を祈り、帰ってきたらまたお参り。家の者は航海の間は何もしてやることができない。海へ行っては手を合わせ、那閉神社で手を合わせて無事を祈る。そんな光景を見かけることが多かったそうです。

祭神 恵比寿様

那閉神社は平安時代中期に編纂された「延喜式(えんぎしき)」の中にもその名が記されています。1500年以上もの長い間この地に住む人々の想いを見守ってきたんですね。

町を歩いてお話を聞いて、ますます浜当目に興味がわきました。皆さんも遠い昔に思いを馳せながら、浜当目海岸を散歩してみませんか。

海と虚空蔵山

取材後記

10月15、16日に行われた那閉神社の秋の祭礼の宵祭。暗闇の中に浮かび上がる大きな提灯。町の人たちにとってはいつもと変わりのない楽しい秋祭りなのでしょうが、海風に吹かれ、寄せては返す波の音を聞きながら行われる神事はとても神秘的な感じ。

那閉神社 秋の祭礼

だからこそ、町の人々が心の支えとするんだろうなあと思いながら神社を後にしました。

取材にご協力いただきありがとうございました!

柳亭(民宿)

あたびーカフェ

あたびーカフェ店内の置物

 

あたびーカフェインスタグラムのQRコード

延喜式内 那閉(なへ)神社

那閉神社

まちかどリポーター

まちかどリポーター:かめ

かめ

焼津生まれ・焼津育ちの野菜ソムリエ。地元の野菜を調べる内、"生きた文化遺産"と呼ばれる「在来作物」と出会い、保存活動を続けている。活動の中で知った焼津の魅力を紹介しようとまちリポに参加。

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ページ更新日:2022年11月15日