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廃材置き場がワンダーランド!「アルモノデアーティスト」松永真治さんに迫る
音楽イベントの空間づくりにワークショップ。仕事の傍ら忙しく活躍する松永真治(しんじ)さん。手元のもので使えるものを廃棄せず次に循環させる作品作りが面白い「アルモノデアーティスト」です。
廃材を使って作品を作る。珍しい取り組みです。今回はそのアイデアの源について探ってみたいと思います。
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松永さんの作品を知ったのは、今年の初春。洋服を作る友達のお店に突如できたディスプレイ用の壁。亡くなったおばあさまの箪笥の引き出しや、ばらしたオルガン、部屋の引き戸、古い木材などを組み合わせたその壁はなんともおしゃれで、ちょっとレトロ感のある彼女の作品とよく合います。私はこの壁に恋をしました。
亡くなったおばあさまの思い出の品で作られた壁
この壁を作った人に会ってみたい!それが「アルモノデアーティスト」松永真治さんとの出会いでした。
たっぱがあり、繋ぎ姿。ちょっと近寄りがたい感じ。あの温かい印象の壁を作ったとはとても思えない。それが彼の第一印象でした。
松永真治さん
でもこわもてな顔は人懐っこい笑顔ですぐに崩れてしまいました。
笑うと全く印象が違う
アートとの出会い
一番最初に体験したのは20代。スプレーアートだったそうです。
スプレーだけで絵や字をデザインしていくことで画面が出来上がっていく。「その過程が面白かった」と松永さん。
自分が描きたいものに合わせてスプレーの押し方やノズルを工夫したり。自分オリジナルのやり方を見つけていく内に、作品に個性が生まれていく。単なる落書きと思われがちなスプレーアートですが、気づくと、他の人たちの絵にも個性がある。サインがなくても「ああこれ、あいつの作品だな」と分かるようになりました。「これ、どんなふうにやるの?」そんな話をする内に自然と仲間も増えてきます。
何かで「自分」を表現する。仲間とその楽しみを共有することで更に新しいことができるようになる。松永さんはその面白さに取りつかれて、「自分を表現」できることはなんでもやるようになります。アフリカの太鼓(ジャンベ)で、アフリカンパーカッションバンドにも在籍していました。
しかし結婚をして、子どもができて。自分も周りもライフステージが上がるにつれ、生活の基盤は「趣味」から「仕事」へと移ってきます。
父の背中を追いかけて
実家が営む自動車修理店で家業を手伝うようになると、仕事がだんだん面白くなりました。
祖父から代々続く工場の倉庫には山ほどの廃材。
倉庫に積まれた廃材
廃材の中には埴輪も!
雑多に置いてあるように見えますが、どこに何があるか一発で分かるようになっているのだとか。
「ただの貧乏性」だと笑いますが、これが仕事で役に立つ。
お客様の中には突発的に車が故障し、「今すぐに直さななければ」という場面も間々あります。
部品を取り寄せする時間もないというその時に役に立つのがこの廃材。松永さんのお父様は修理のエキスパート。廃材の中から代用できそうな部品を持ってきて、汚れをものともせず完璧に車を直すスペシャリストです。
そんな父を”かっこいい”と慕う松永さんは、父の背中を追いかけ、車の修理では欠かせない溶接の技術を、倉庫の廃材を使って独学するようになります。
鉄と鉄を繋げては失敗し、少しずつ技術を身に着け。成果は積み上げられていく鉄の山。努力の結晶だからでしょうか、その内その鉄の山が愛おしくなってきます。
「この溶接された鉄を、もっと美しくしてやれないだろうか。」
そう思っていた頃にボランティアで参加していたのが「キャンドルナイト」のイベント。電気を消してキャンドルの明かりを愉しみ、環境について考えるこのイベント。飲食のブースなど、スタッフは真っ暗な中で仕事をしなければなりません。
そんなスタッフのために「明かり」を提供できないか。
試行錯誤して作ったキャンドルスタンドが作品第一号。キャンドルの明かりの中に浮かび上がったスタッフたちの嬉しそうな笑顔が忘れられないと語ります。
「それから僕、蝋燭立て屋になったんです。」と笑う松永さん
キャンドルスタンド
使い古されたボルトやナット、そして鉄の棒など、色々な部品をつなぎ合わせたキャンドルスタンドは、何とも味があって温かい。松永さんの人柄を形にしたような作品。きっと蝋燭の明かりの中ではもっと温かく見えるんだろうなあと想像してしまいました。
「新しい素材とは違う、時を経た物の作り出す美しさがありますね」と感想を述べると、仕事やイベントで出会う人たちとした話を聞かせてくれました。
「建築家に”生かし取り”という言葉を教わりました。これは、解体工事において、そこにあるものをなるべく傷つけずに解体し、次に生かす方法のこと。家具屋さんに教わったのは、修理の方法。その物が作られた当時の部品を使って修理すると出来上がりが不自然にならないんだそうです。
これを聞いたときに、”ああ僕がやりたいのはこれなんだ”と思いました。
廃材と見てしまえばそれは不用品になるけれど、そこには既に今までそれを使っていた人とのストーリーがある。それらに新しい命を吹き込んでやることで、新たに記憶に残る作品になる。物に対する愛情も深まるし、次の人の元へ送り出すことで新しいストーリーも生まれる。「“これが僕の表現になる”、そう思ったんです。」
この経験をきっかけに、捨てられる運命にあった廃材を使って物を作ることに没頭していきます。キャンドルスタンドは定番になりましたが、釘などを溶接して作る看板や表札も人気。これもすごくかわいい。
市内飲食店の看板も松永さんの作品
「特に何に使ってくださいって決めて作ってるわけじゃないんです」
キャンドルスタンドを買ってくださったお客様が、多肉植物を植えて楽しんでると聞いてびっくりしたという松永さん。自分好みの使い方をしてもらうことで、愛着も増すのではと考えているそうです。
再利用する楽しさ
最近では小さな作品に留まらず、色々なイベントからお声をかけてもらい、舞台の空間作りもするようになったのだとか。
「旅する椅子」と呼んでいる古い椅子がきっかけ。
旅する椅子
「知り合いのイベントで、捨てられるはずだったアンティーク調の古い椅子を会場に置いて、写真を撮ってもらったり休んでもらったりしてもらうつもりが、周りでパフォーマンスが始まってしまって…」
ちょっとしたパブリックアート。吉田公園(吉田町)で行われた音楽フェスではあのUAが座ったのだとか。
「こういうことをさせてもらうようになって、色々な人とコラボできるようになりました。」
2022年10月に焼津さかなセンターで行われた、NPOジャマイカ情報センター主催「ジャマイカ・焼津フレンドシップフェスティバル」。仲間の植木屋さんから剪定時に出た枝をもらい、前日、長時間かけて組んでジャマイカの国旗に見立てました。
ジャマイカフェスタ舞台
木の香りがするわけではないのですが、舞台の前に立つとなんとも自然豊かなジャマイカの風景が浮かんでくるような気がします。
そろそろイベント終了という時間帯。「さてこの枝、次にどう使ったら面白いかな?」と楽し気に考える松永さん。捨てられるはずだった枝がこんな風に循環されていくんだなあと面白く思いました。
仲間のために
いつか工場の倉庫を自分の作品を並べたアトリエにしたいと語る松永さんですが、イベントの空間づくりなど、裏方に回ることも多くなってきました。あくまで自分らしいやり方で。それでも裏方ではちょっとつまらないのではないのだろうか。松永さんはこうおっしゃいます。
「今まで上の年代の人たちに自分が遊ぶ場をいっぱい作ってもらった。だから今度は僕が。仲間が表現する場、コミュニケーションを取れる場を提供する。」
台風15号の影響により静岡県内各地で起きた水害の後。無理してでも楽しい場を提供しようと集まったイベントで、仲間の被害を知ったそうです。
「そういうコミュニティーがあるから知ることができたし、手伝いに行くことができた。」
何かを表現するのは面白いけど、それを一人でやっているだけではつまらない。
仲間がいるからこそ、もっと面白いことができる。それを知っている松永さんだからこそ、仲間が大切なんだなあと思いました。
灯のともるキャンドルスタンド
これからの松永さんの活躍、楽しみにしています!
まちかどリポーター
かめ
焼津生まれ・焼津育ちの野菜ソムリエ。地元の野菜を調べる内、"生きた文化遺産"と呼ばれる「在来作物」と出会い、保存活動を続けている。活動の中で知った焼津の魅力を紹介しようとまちリポに参加。
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ページ更新日:2022年12月7日