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江戸の暮らしを伝える隠れ里「花沢の里」

みなさんは「花沢の里」を知っていますか?

焼津市花沢にある30戸ほどの山村集落です。

中腹からの花沢集落の景観

江戸時代の建造物群が残り、街道沿いの石垣と建造物・自然環境が調和し、歴史的風景を成しています。

2014年に静岡県初の「重要伝統的建造物群保存地区」※ に選定されました。

「建造物群と周囲の自然環境が一体となり、みかん栽培で栄えた山村集落の歴史的風致を伝えている」ことが選定の理由です。

今回は、花沢の里の見どころ、歴史や文化について「どんなところが歴史的なの?」「建造物や自然環境はどこが見どころなの?」などなどまちあるきをしながら、歴史を肌で感じてみたいと思います。

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案内してくれたのは、焼津市歴史民俗資料館の鈴木源さんです。

焼津市歴史民俗資料館の鈴木さん

鈴木さんは島田市出身。考古学を専攻した後、焼津市歴史民俗資料館の学芸員に就任。

2004年、花沢の里を担当することになったそうです。

「古いものを扱うから分かるでしょって言われたんですけど、民俗や建築についてはまったく、ね(笑)」

民俗や建築については全くの専門外で今の仕事に就いてから勉強し始めたといいます(かなりの無茶ぶり!)

 

「小規模な施設だと、専門外のことも広く取り扱わなければいけないんです。おもしろいところに勤めさせてもらったなあ、と」

焼津市外出身で、花沢集落とはまったく地縁がなかったところから、現在は10年以上の付き合いになるんだとか。

鈴木さんは取材の際も地域住民の方と挨拶を交わされていて、深い関係性ができていると感じました。

花沢集落とは?

産業に関して、花沢集落ではみかん・お茶栽培、養蚕が盛んだったそうです。

みかん栽培には日照時間の長さと水はけのよさが必要で花沢の山腹はその自然環境に恵まれていました。

経営規模の大きな家では、収穫時期になると5、6人の季節労働者を雇っていたそう。

明治時代後半から昭和30年代頃までみかん栽培は盛んにおこなわれ、花沢集落の山々は見渡す限りの蜜柑畑だったそうです。

集落に生る蜜柑!

また、宇津ノ谷(うつのや)や日本坂といった静岡市街につながる道にあったため、交通の要衝地でもありました。

「隠れ里のようで閉鎖的な印象だけど、実は人々が通う開放的な地区だったんですね」

静岡と焼津をつなぎ、みかんやお茶を売りに出していたそうです。

花沢の里を歩いてみよう

花沢の里の駐車場からすこし歩いていくと、はじめに新しい建物が見えてきました。

ビジターセンターです。

花沢地区ビジターセンター

もともと古い空き家だったものを2020年、訪れた人が家屋の内部を見られるように改装したそうです。

主屋には畳の広間があったり、縁側があったりと花沢地区の一般的な建物配置が見られるようになっています。

内装を見て興味深かったのは、みかんの貯蔵庫として使われた附属屋(ふぞくや)。

「独特な床の張り方なので、床の下にみかんを貯蔵していたんだと思います」

貯蔵庫の床

 

「天井の四隅と中央に穴が開いているのは、風通しを良くするためです」

換気のために開けられた天井の通気口

花沢では、甘みを増すため、みかんの収穫後に1か月以上貯蔵します。

天井の通気口は、みかんを腐らせずに長期間保存しておくための知恵なのです。

工夫されていて、すごいなあ。

川に降りるための”ダンダン”と石垣

花沢川沿いに家屋が立ち並ぶ集落では、石垣が多く積まれていることが気になりました。

川の護岸も、家の前も、石垣が多い。

また、道路から川に降りる石段がところどころにありました。

川に降りるための石段(ダンダン)

「これは“ダンダン”といって、ここから川に降りて野菜を洗ったり、洗濯をしていたんです」川のある暮らし。花沢川の恩恵をたっぷりと受けています。

「このあたりから石垣が高くなってくるんですよ」

花沢集落は山に囲まれ土地が限られているため平地を確保するために石垣を積んでいたそうです。

集落の傾斜に合わせて積まれた石垣

西からの傾斜がつよくなるのに合わせてだんだん石垣が高くなっていくのですね。

人の身長以上の高さになる所もありました!

花沢集落独特の構え”長屋門”

さらに歩いていくと、何やらお店の看板が見えてきました。

古民家カフェ「カントリーオーブン」です。

カフェ「カントリーオーブン」

ここにもみかん栽培が盛んだった跡が見て取れます。

「長屋門と呼ばれていて、隣同士の附属屋の2階をつないで部屋としていました」

 

附属屋をつなげて増築された”長屋門”

「みかんを収穫する季節労働者たちが寝泊まりする場所を確保するために増築されました」

花沢の建物は生業の変化により増改築されてきたんですね。

高草山の昔ばなしが残る法華寺

家屋が並ぶ集落のつきあたりには、法華寺があります。

法華寺の本堂

法華寺には「乳観音」(ちっちかんのん)も祀られています。

むかし、高草山の隣村の嫁が乳の出が悪くて悩んでいました。

ある日、赤ちゃんを背負い高草山を越え、ふもとの法華寺の門前の大きなイチョウの木に祈ったところ、とつぜんイチョウの幹が光を発し観音様が現れました。

お告げをいただいた夜から乳の出がよくなり、目に見えて大きくなった赤ちゃんは村一番の元気な子になった、という言い伝えが残ります。

大木の象徴として境内には大きく立派なイチョウの木がありました。

「年の重ねたイチョウの幹からは根っこのような”気根(きこん)”が出てくるんです」

法華寺境内に残されているイチョウの切り株

すごい、2つ根っこのようなものが生えていました!

この大木が乳観音の言い伝えのもとになっているのですね。

取材をおえて

全国126地区ある”重要伝統的建造物群保存地区”。

その多くが観光地化を目指すことで集落を維持しようとしています。

花沢集落では、観光地化は目指さず歴史的景観のもとで暮らしやすい環境を整える「まちづくり」を目指していると鈴木さんは話します。

花沢の里の風景

「ここは、まちが近いから働きに行けるんですが、日常の静かな生活が続いている地区です」

「だから観光地化は目指していないし、住んでいる人がすばらしい歴史的景観のなかでよりよい生活を続けてもらいたいという思いで関わっています。ありがたいことに今は、空き家問題もほとんどないんです」

だからなのか、花沢の里ではお土産屋さんや、飲食店、記念品販売など観光地らしいものはありませんでした。

つまり、観光客を呼び込むために建造物・景観を保存しているのではなく、文化財として未来に伝えるために

本物の歴史的景観を保つことを目指しているそうです。

静岡県唯一の「重要伝統的建造物群保存地区」

ふと懐かしさを感じる建物や景色に触れ歴史的なおもむきを感じてみませんか?

花沢の里

  • 所在地:焼津市吉津187-1(花沢の里 臨時観光駐車場所在地)
  • 焼津市ホームページ
  • 【交通アクセス】

東名焼津ICから、約10分。新東名藤枝岡部ICから約20分。無料駐車場有り。

バス…焼津駅南口1番線より、焼津循環線「さつき」または「ゆりかもめ」乗車

「高草山石脇入口」か「日本坂PA」下車(約13分)⇒ バス下車後、徒歩約30分

花沢の里は一般の方々の生活環境であるため、以下の点にご配慮いただきますようお願いいたします。

  • 敷地内は日常生活の場です。無断で敷地内に入らないようにしましょう。
  • 道路に広がって歩かないようにしましょう。地元車両の通行にご協力をお願いします。
  • 保存地区内の道路は狭く、車のすれ違いができない箇所が多くあります。
  • お車でお越しの際は、観光駐車場をご利用ください。

 

まちかどリポーター

まちかどリポーター:やぎちゃん

やぎちゃん

藤枝市出身。静岡文化芸術大学4年生。農村社会学専攻。人との新しい出会いや会話が好き。現在新聞社にて奮闘中。焼津で取材・記事作成スキルを学びたいと考えまちリポに参加。特技はけん玉。

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ページ更新日:2022年12月12日