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【開局1周年】有志の灯火が繋ぐ地域の絆ーー「RADIO LUSH」に引き継がれた地域防災のバトン
静岡県焼津市に新たな声が響き始めたのは2024年8月12日のこと。
地域情報を発信するとともに、災害が起きた際には住民の命を守るための重要な役割を担う、
地域に根差したコミュニティFM局「RADIO LUSH(レディオラッシュ)」が開局しました。
今回は、インターネット番組「やいづテレビ」という有志による活動に励み、今ではこの新しいラジオ局で働くようになった2人のスタッフに取材させていただき、地域防災とコミュニティFMの在り方について伺いました。
「やいづテレビ」ーー地域を繋ぐメディアの誕生
2011年、東日本大震災が発生し、焼津市では地域防災への意識が高まっていました。そんな中、「焼津で頑張っている人に楽しんでもらおう」「焼津で頑張っている人がもっといろんな活動ができるように、いろんな人たちと会えるような場を作ろう」という想いを持った青木靖宜さんを中心に「やいづテレビ」(元々はyaizu stream clubで2年後に改称)はスタートしました。
やいづテレビのロゴマーク
今では、誰もが気軽に情報を発信できる「YouTube」ですが、当時は多くの人にとって「YouTube」は視聴するだけの媒体であり、誰もが気軽に情報を発信できる環境ではありませんでした。そこで、「やいづテレビ」は、自ら情報を発信できない地域の人々をサポートする役割も担いながら、地域情報を発信する拠点としての機能を持ち始めました。
この「やいづテレビ」の活動に深く関わるようになったのが、齋藤まきさんでした。山形県出身で、父親の転勤により静岡県内を転々とし、18歳で焼津市に移住した齋藤さんは、地元の金融機関に約20年間勤務した後、地域でのボランティア活動に積極的に参加していました。幼馴染も、昔からの友達もいないという齋藤さんにとって、焼津は長く住むことになった特別な場所でした。
「この街のためにできる何かをしたい」という想いが、齋藤さんにとって地域活動への原動力となっていきます。
RADIO LUSH 総務制作担当 齋藤 まきさん
元々、「自分で何かをするというタイプではない」と語る齋藤さんは、「誰かが何かをやっていることに対して全力で応援をする、全力でサポートをする」というスタンスで活動していました。そんな中、「やいづテレビ」主宰の青木靖宜さんと出会い、その考えに深く共感したことが、齋藤さんの意識を変える大きなきっかけとなります。
「やいづテレビ」に遊びに行くようになった齋藤さんは、次第に配信の雑用を手伝うようになります。手伝ううちに、番組終了後も一人でスタジオに残り、編集作業から掃除までこなす青木さんの姿を目の当たりにし、スタジオの電気代や機材の費用をほとんど一人で負担し、時間も費やして運営している青木さんの姿に、「ただ楽しんで帰っていいのか」疑問を抱くようになったといいます。
その日から、齋藤さんは積極的に「やいづテレビ」の運営を手伝うようになり、青木さんが一人で担っていた役割を分担するようになりました。その献身的な姿勢が青木さんに認められ、次第に様々なことを頼まれるようになり、いつしか齋藤さんは「やいづテレビ」のマネージャーとして、その運営を支える重要な存在となっていきました。多くの困難もあったといいますが、青木さんからの信頼が何よりも嬉しく、その信頼に応えたいという想いが、齋藤さんの活動を支えていたといいます。
一方、「やいづテレビ」で人生が大きく変わるきっかけになったのは、齋藤さんだけではありませんでした。1979年静岡県生まれの原慎介さんです。私立短期大学の美術科を卒業後、絵描きとして生計を立てることを目指しますが、東京のデザインフェスタでその厳しさを痛感し、約15年間福祉の仕事に従事しました。しかし、40歳を過ぎても絵描きへの夢を諦めきれず、再チャレンジを決意します。その中で、自分のキャラクターを売り出すために選んだのが、「やいづテレビ」でのパーソナリティという道でした。
RADIO LUSH 番組制作部 原慎介さん
原さんは毎週ゲストを招き、そのアテンドから取材、収録までを一人で担当していました。この経験は、自身のキャラクターを広めるという目的だけでなく、後に「RADIO LUSH」での仕事に繋がる貴重な経験となったといいます。
焼津市内で行われている地域防災のカタチ
2024年2月、「やいづテレビ」はその10年以上の歴史に幕を閉じました。その背景には、YouTubeをはじめとする動画配信プラットフォームの普及により、誰もが気軽に情報を発信できるようになったという時代の変化があります。そんな中で「今までの惰性で続けるのはよくないだろう」と考え、終了を決断したといいます。
一方、その頃、焼津市で新たな動きが始まっていました。コミュニティFM局「RADIO LUSH」の開局準備です。
「RADIO LUSH」ロゴマーク
「RADIO LUSH」はコミュニティFMとして開局しましたが、2011年から有志で「やいづテレビ」が始まり、そして今度は「RADIO LUSH」が立ち上がった流れを見ると、長きにわたって、市民や市内企業が「地域防災」に関わり、「自分たちの命は自分たちで守ろう」としていることが伺えます。
一方で、焼津市地域防災課も、市民とは違うアプローチで、地域防災を担っています。
地域防災課の鈴木さんによると、「地域防災課は、主に自主防災会のバックアップと防災・避難計画で地域防災を担っています」と言います。
自主防災会とは、自治会(大井川地域は町内会)単位で編成された防災活動や避難訓練、防災訓練を行うグループで、阪神淡路大震災以降に組織されました。焼津市により、資金面等の補助を受けながら、地域の自主防災会の維持に努めているそうです。
さらに防災計画については、家具転倒防止、単身ブレーカー設置の補助に加え、防災の知識をお伝えする出前講座も開催し、令和6年度88回実施され、延べ1000人近くが受講されたとのことです。
「やいづテレビ」の終焉、そして「RADIO LUSH」が描く未来
「やいづテレビ」でマネージャーとして献身的に活動する齋藤さんの姿をずっと見ていた人物によって、齋藤さんは「RADIO LUSH」の一員として新たな一歩を踏み出すことになります。また原さんも「やいづテレビ」でのパーソナリティを通じて広がった人脈が縁を結び、「RADIO LUSH」の一員として入社することになったといいます。
東日本大震災以降、地域の情報発信だけでなく、地域防災としての期待が高まる「コミュニティFM局」。齋藤さんは「RADIO LUSH」について「地域に密着して、地域防災をもう少し強く発信していけたらと思っています」と話します。まだ開局したばかりで知名度がないことが課題であると認識しつつも、その根底には強い使命感があるといいます。
RADIO LUSH 焼津本社
また地域防災におけるコミュニティFMの役割について、齋藤さんは次のように話してくれました。
「例えばお年寄りが1人で住まわれていたりしても、災害などがあった時に、焼津に住む人全員に情報を届けられるということが大事だと思っています。
若い世代はインターネットを通じて情報を得ることができますが、高齢者など情報弱者と呼ばれる人々は、必要な情報にアクセスすることが難しい場合があります。そうした人々がラジオをつけた時に、地域の状況を把握し、自分がどう行動すべきかを知ることで、心理的な安心感にも繋がりますから」と。
さらに齋藤さんは、「電気が止まったらスマホも見れなくなるので、乾電池で動くラジオで災害情報を入手できるようにすることが命を守る行動に繋がると思います」と話してくれました。その真剣なまなざしに「焼津にコミュニティFMがあることを知ってほしい」という思いが伝わってきます。
地域防災としてのコミュニティFMの役割
実際に災害が発生した際には、「RADIO LUSH」はどのように機能するのでしょうか。
齋藤さんによると、スタジオには既に災害時の原稿が用意されているといいます。非常時には、誰かがスタジオに駆けつけ、マイクを通してその原稿を読み上げ、焼津市からの正確な情報などを住民に伝える体制が整えられています。
災害時の原稿
「ラジオさえあれば、家にいながらにして、命を守るための情報を得ることができますし、そういうお手伝いができたら、すごくいいなと思っています。それが本来のコミュニティFMの役割なんじゃないかなとも思ってます」と、齋藤さんは地域防災としてのコミュニティFMの役割について語ってくれました。
もちろん、地域防災の要となるためには、「RADIO LUSH」の存在が焼津市民にとって日常的に馴染みのあるものでなければなりません。
そのため、まずは地域での認知度を高め、多くの人に聴いてもらうための地道な活動が重要となります。ゲストを招いての番組制作や、地域のイベントへの積極的な参加、焼津市や地元企業への挨拶回りなど、様々な活動を通じて、「RADIO LUSH」は地域に根ざした放送局としての基盤を築こうとしています。
RADIO LUSH用宗サテライトスタジオ:外観
かつて地域を繋ぐ灯火であった「やいづテレビ」の想いを引き継ぎ、新たな形で地域に貢献しようとする「RADIO LUSH」。有志の活動から生まれた繋がりは、地域防災という重要な使命を担い、焼津の街に安心と安全を届けるための力強い一歩となることが期待されます。
齋藤まきさんや原慎介さんをはじめとする「RADIO LUSH」に関わる全ての人々の情熱が、焼津の未来を明るく照らしていく灯火となることを願って。
RADIO LUSHラジオ配信の様子:用宗サテライトスタジオ
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まちかどリポーター
ケンフィー
1994年生まれ。兵庫、岡山を経て静岡へ。ITエンジニアの傍ら、様々なイベントの運営に関わる。2017年頃から始めた個人での取材経験を活かして地域創生に関わるため、まちリポに応募。
ページID:394
ページ更新日:2025年8月20日