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温かな人と人とのつながり 藤守の田遊びから学ぶ【後編】

焼津市藤守地区で、毎年3月17日、大井八幡宮のお祭りで国指定重要無形民芸文化財として指定されている「藤守の田遊び」。
後編では「藤守の田遊び」保存会の方たちに、実際に田遊びに関わる方たちの想いを伺いました。

法被姿の「藤守の田遊び」保存会の皆さん

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戦後農家の数は激減していきます。以前のように田んぼを守るため、それぞれがそれぞれを支えるという仕組みもその必要性を失っていきました。「藤守の田遊び」もまた、” 命に等しい田んぼを守るために神に捧げる”という従来の目的は薄れていきます。

それでも、今なお大切に守られているのは何故でしょうか。

重要無形文化財を守る 手作りの神事

先日訪れた「藤守の田遊び伝承館」でのこと。

藤守の田遊び伝承館

各月第三日曜日、保存会の方たちから「藤守の田遊び」について学ぶことができる「藤守の田遊び」について詳しく教えていただくために、田遊び保存会の皆さんにお話を伺いました。

保存会の皆さん

舞台に上がるのは主役の振取(ふっとり)、準主役の先猿(さいざる)を含め、約30名(その年によって違う)。その後ろを家族、保存会、老人会などが支えます。

先猿冠

役付きの男性は藤守在住の未婚の男性に限られます。

他の地区の田遊びは世襲制で行われているものもあるのだそうです。それに比べ「まちに住むものなら誰でも参加可能」と門戸を広げている「藤守の田遊び」の方が、持続可能なのではないかと保存会の方はおっしゃっていました。

 

苦労されている面も沢山あります。

 

田遊びは、国の重要無形文化財に指定されているからこそ、手作りの形を強く残しています。
唄やセリフは口伝。新入りは踊りも先輩や保存会の人たちから教わっていきます。
お祭りの注連縄などは老人会が綯い、衣装である和紙で作った蓑や独特の帽子「しょっこ」のてっぺんに飾る花ぼろうも手作り。

美濃和紙で作った蓑

しょっこ

花ぼろう

びっくりしたのが、神饌としてささげられる「牛の舌餅」。奉納後、藤守の全世帯に数枚ずつ配られるためおよそ2000枚が必要となりますが、これも役付きやその家族、また保存会などが総出で作るのだそうです。

何年も演者として神事に関わる 次代へ継承される使命感や誇り

また役付きの男の子たちは中学生から25歳。未婚の青年たちに限られます。
思春期真っ盛りから大人へと成長していく年頃。大声を張り上げ人前で踊るというのは本当に恥ずかしいことなんじゃないかなと思ってしまいます。

核家族化が進む中こんなお祭りを維持していくのは大変なのではと聞いてみると、後継者不足の不安はやはり大きいと保存会はおっしゃっていました。

しかし実際には、何年も演者として「藤守の田遊び」に関わる若者がいるのだそうです。

大井川町制50周年記念事業の一環として作られた記念誌『藤守の田遊び伝承』の編集に携われた田中さんによれば、「保存会だけでなく、地域の若者が役付きとして自発的に関わり、年上の者が年下の者を指導していく」これが既存の田遊びとはちょっと違う特徴。

 

小さい頃から先輩が田遊びに関わっているという環境。重要無形文化財に関わるという使命感や誇りが自然と役付きの青年たちを生むのだろうと田中さんはおっしゃいました。きっとそこに面白みも感じるのだろうとも思います。

「面白い」から「生き甲斐」へ

保存会の方たちに田遊びの様子を収めたDVDを見せていただきました。それを見ながら、口々に「ああこの時この人がまだ生きていたんだっけ」とか「この子は今あそこの大学を卒業してこんな仕事に就いたんだよ」とかそんな話をしていました。お祭りに関わった方たちのことをよく知っているんだなあと感じました。

 

皆さんにとって「藤守の田遊び」とはどんなものでしょう。

「こんなに歳が違う人たちと関わるなんて、すごく面白いでしょう?」とおっしゃったのは、青年部の片岡さん。

中学生から80を超えた方たちまで。

新入りは先輩から唄や踊りを一から教わり、歳が上がっていくにつれ、演者として集団を引っ張っていく。青年部は中堅どころ。年上のメンバーの意をくみながら唄や踊りを教え、演者たちの面倒を見ていく。長老の方たちは、長く「藤守の田遊び」に関わった記憶をたどり、昔からのお祭りの形を守っていく。

伝承館で話す保存会の皆さん

 

「それぞれがそれぞれの役割を負うことで、祭りを守っていくんだよ」と保存会会長の河村さんはおっしゃいます。

 

国の重要無形文化財を守っていくというのはとても難しいことです。
守っていかなければという義務感はやはりある。ですが、それだけでは長年続けていくことはできません。

保存会の方たちが、ハプニングがあった年のことを話していました。

人が集まらなくてそれぞれの負担が増えていかに大変だったかという話をさも面白そうにし、「あの時は楽しかったよな」とおっしゃっていたのがとても印象的でした。

役付き、その家族が長年関り、その役割を終えた後も保存会や老人会、色々な形で関わる田遊び。
何年もにわたり密な時間を過ごす中で、それは生き甲斐となり、同じ体験を通して仲間としての関係も密になっていくのだと思いました。

 

「この辺だって、他の地域と変わらず” 隣組の人の顔を知らない” という状況はやはりある」と田中さんは言います。
それでも、「藤守の田遊び」を通じて得るような強固なコミュニティーがある。

 

自分のことを深く知り、関わってくれる人達がいるコミュニティーをいくつ持っているかで生活をしていく上で安心感は格段に違ってきます。

 

「藤守の田遊び」は、国の重要無形民俗文化財として華やかで貴重なお祭りです。しかしそれだけではなく参加している方たちにとっては人生の上でかけがえのないお祭りでもあります。

心温まるお祭り。いつまでも残っていってほしいなあと感じました。

藤守の田遊び第21番の「猿田楽」(資料提供:焼津市歴史民俗資料館)

 

 

まちかどリポーター

まちかどリポーター:かめ

かめ

焼津生まれ・焼津育ちの野菜ソムリエ。地元の野菜を調べる内、"生きた文化遺産"と呼ばれる「在来作物」と出会い、保存活動を続けている。活動の中で知った焼津の魅力を紹介しようとまちリポに参加。

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ページ更新日:2021年1月20日